「…」
「…」
「うるせぇ」
「え、なにが?」
普通に「どういたしまして」でいいじゃんそこは。
小さい頃からちっとも変わらない返し方に「ぷっ」と口許が緩む。
小脇に停めた自転車を持ってきてもらい
正門前だけど先生が見てないのをいいことに荷台に跨ろうとした瞬間──
「待った」
凛がストップをかけながら
自分の学ランを脱ぎ出した。
「なに?」
「これ腰に巻いてから乗って」
「なんで。 別に寒くないしいいよ」
「いーから」
無理やり腰に回され、お腹の前でキュッと袖口を結ばれる。
凛はたまにこういう変なこだわりを見せてくる。
断っても頑なに言ってくるから、最後は結局私が折れて言われるがままだけど。
学ランも腰に巻いたことだし、もういいよね?
今度こそ本当に荷台に跨ると
お決まりの合図を送る。
その合図に合わせて動き出す自転車。
「ねどっか寄ってく?」
「どっかってどこ」
「水郷公園とか」
さっきも言った通りお金はないので場所は限られてくる。