2年おきの恋。-偶然と必然と運命と宿命-

 
**-- other side Three --**



ほんとに小峯栞の言葉はキツい。あまり感情を表に出さない分、なおさらグサッとくる。


でも俺は、それが小峯栞なんだと思っている。


友だちの雪ちゃんやあの彼にもつき合えたんだ、俺にだってできるさ。


それに、俺は発見した。
小峯栞は俺と言い合いになると表情ができる。


怒った顔しか見たことないけど、それでも無表情よりはずっといいさ。


俺と話すことで、少しずつでも表情が柔らかくなったり感情を表に出すようになってくれればいい。


教師になる夢を諦めざるをえなかった俺にとって、2度目の生徒で最後の生徒。


小峯栞が普通に笑う日が来たら、俺は未練も執着もなく夢を思い出に変えることができる。


他人任せになるけど、本当に一番叶えたい夢だったから、引っ越し屋になってからも忘れられなかったんだ。


父ちゃんや母さんは教師になりたかったらなりなさいって言ってくれたけどさ。


でもアイツのことを思うと、俺だけ夢を叶えるわけにはいかないんだ。
 

 
**-- other side Three --**



俺はある意味“賭け”に出たのかもしれない。


偶然から始まった小峯栞との出会いに……。


そうだ。
運命と宿命って、似たような意味に取られがちだけとそうでもないんだ。


運命。
運命とは、人の意志ではどうにもならない、幸・不幸の巡り合わせって意味。


宿命。
宿命とは、前世から定まっているとされる運命。人間の意志では変えることができない運命的なものってこと。


少しニュアンスが違う。
簡単に言うと、生まれる前から決まっているものと、生まれてから生きていく中で決まっていくものだ。


俺はそういう意味に取っている。まぁ生活の中で“運命”とか“宿命”とかを考えることってあんまりないんだけど……。


だから俺は、勝手にいろいろと小峯栞にちょっかいを出すことに決めた。


合コンのあの香水の彼女のようにとびきりウザく、でも臭いはキツくなく。


そしてそのはじめの1歩にと、会社に戻る前に小峯栞に宛てたメモを残すことにしたんだ。
 

 
**-- other side Three --**



小峯栞さん。


おまけのおまけで9割だ。


0*0-****-*326


****.0404#******.ne.jp


俺の。


*着信拒否・受信拒否はしないほうがいいと思うよ?家まで押しかけるから。
俺、あんたのストーカーになることに決めた。


んじゃ!


・:*:・゚'★,。・:*:・゚'☆・:*:・゚'★,


俺のプライベート用の番号とアドレス。


それと“ストーカーになる”って書いておいた。


“9割”は、俺が勝手に決めた厳しさ:優しさの優しさのほうだ。


トラックに戻って急いで書いたからほとんど殴り書きに近かったけど、読めないほどじゃないはず。


それを俺は、小峯栞が使うポストに入れた。


堂々とストーカー宣言しちゃったもんだから、あとで警察から電話が来ないか正直ビクビク……。


よっぽど取りに戻ろうかと思ったけど、思い直してやめた。


来るなら来い、警察め!
 

 
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桃原直貴が残したあのメモを発見してから1週間。


ワタシは、頭の片隅にはその事はあったものの、普通に普段通りに生活していた。


派遣会社からの紹介で、会社の受け付けの仕事を新たに始めた。


1週間前にひいたカゼはまだ少し残っているけど、仕事にも生活にも支障はなかった。


タチの悪いカゼにかかったりその年の流行のカゼだったりすると、薬は飲んでもしばらく治らない。


そういう類いのものだと思っていたから、特別気にしたりはしなかった。


ワタシはなぜか、桃原直貴のメモを捨てられずにいた。


拾って読んだときは、燃やすかゴミ袋に突っ込むかしようと思ったけど、どういうわけか今もワタシの手元にある。


そして、小さな机に放ってあるそのメモを見るたび、少しずつ桃原直貴に興味を持つようになっていた。


――字、ありえないくらいヘッタクソ!


その字から、暗い中で急いで書いたことが読み取れる。


かろうじて読めるくらい、本当にヘタクソな字だった。
 

 
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――雪に相談……しようかな。


最近はそんなことを思うようにすらなっていた。


ストーカー宣言されたんだ、ワタシだって鉄でできているわけじゃないからちょっとは怖い。


ワタシの住所も電話番号も知られているわけだし、会社帰りに待ち伏せされてたりした日には腰を抜かすくらいじゃ済まないかもしれない。


警察に届けようにも、特にストーカーらしいことをされたわけじゃないし、このメモを持っていったところで真面目に取り合うわけがない。


警察とはそういう所。
ワタシは身をもって体験したことがあるから、これは確実に言えることだ。


本当に真面目に仕事をしている警官の人には悪いけど、そうなんだから仕方がない。


ワタシは思い切って雪に電話をかけることにした。


昼間は雪もワタシも仕事があるから、部屋に帰ってから頃合いを見計らってかけることにした。


合コンの時に何も言わずに帰って以来、1週間ぶりの電話だった。


ひとまずゲームはセーブって感じかな。
 

 
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『プルルルル……』


耳の向こうから無機質な電話の呼び出し音が聞こえる。


「もしも〜しっ」


すぐに雪は明るい声で電話に出てくれた。


「雪、久しぶり。ワタシだけど」

「お〜!栞ちゃん、元気〜?」

「うん。まぁまぁ元気」


電話の向こうからは、雪の声以外に騒がしい音が聞こえてくる。


「どした?カゼでもひいた?」


雪がテンション高めに聞く。


「うん。だいぶ治ったけど。ところでさ、今電話してても平気?」

「うん。スーパーに買い物来てるだけだよ。なんかあった?」


雪は、ワタシが断りもなしに合コンから帰ったことを気にしていない様子だ。


「あ、うん……、この前の合コンさ、勝手に帰ってゴメンね?怒ってるかと思って。その電話」

「な〜んだ、そんなこと?栞ちゃんの気にすることじゃないよ、あれは無理に誘ったあたしが悪かったんだから」

「うん、あんがと」

「ううん!で、何があったの?」

「や、別に……それだけだよ」
 

 
**-- Four --**



相談しようと思っていたのに、いざとなるとできなかった。


ワタシは目の前にあるあのメモを持って、今さらながら雪に言うべきかどうか悩んでしまった。


「嘘つけ!栞ちゃんがわざわざあたしに電話するってことは、何かあったってこと。これ、あたしの勘なの。絶対嘘!」

「……鋭いね、雪って」

「バレバレだっつーの!」

「うん、じゃあ聞いてくれる?」

「どんと来いっ!」


・:*:・゚'★,。・:*:・゚'☆・:*:・゚'★,


それからワタシは合コンの日から今日までの経緯を説明した。


桃原直貴が引っ越し屋さんだったこと。


引っ越し当日、カゼで倒れたワタシを看病してくれたこと。


番号とアドレスの書いたメモがポストに入っていたこと。


そのメモに“ストーカーになる”と書いてあったこと。


そして1週間、ワタシがそのことで悩んでいたこと。


その間、雪は買い物を終わらせてスーパーの中の休憩所でワタシの話を聞いてくれていた。
 

 
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一通り話し終わると、雪はワタシにこう言った。


「ゲーム、壊れちゃうかもしんないね」





雪は、前の会社に入ったとき、ワタシの3週間くらい後に入ってきた子だった。


雪もワタシも同じ派遣会社に登録していて、偶然同じ会社に配属になった。


雪は最初からワタシのことを“栞ちゃん”と馴れ馴れしく呼んで、事ある毎にワタシを頼っていた。


始めは正直ウザいと思ったけど、ワタシが素っ気ない態度をとってもそれを“カッコい〜”と言ってついて歩いていた。


特に雪を嫌う理由も見つからなかったから、ワタシはお決まりの“ゲーム”の中のキャラクターとして受け入れていった。


雪とは約2年のつき合いで、その間にワタシは可能な限りワタシについて話した。


ワタシがする“ゲーム”のことも話したことがあった。


でも雪は“ゲーム”という意味を理解しても、ワタシと変わらないつき合いをしてくれた。


少し変わった感性を持った子――それがワタシが分析した雪いう子だった。
 

 
**-- Four --**



――壊れる?


「なんで?今セーブしてるとこなんだけど」


ワタシは雪の言葉に一瞬、不安をおぼえた。


「セーブねぇ。じゃあ、もうそのゲームはそこで終わりかな」

「どういう意味?」

「続きはやらないってこと」


――続きはやらない?


「できるよ。てか、やる!」


ワタシは少しムキになっていた。


「栞ちゃん、あのさ」


雪はフゥと軽く息をはいてから、静かに言った。


「なに?」

「栞ちゃん、来年25でしょ?小学生の恋愛じゃないんだからさ、分かってやりなよ、その……、ほらっ!名前なんていうんだっけ」

「……桃原直貴」

「そうそう!その桃原さんって人の気持ち」


――……??ちょっと待ってよ、お雪さん。


「ワタシに気があるっての?」


ワタシはヘソで茶を沸かせるくらいちゃんちゃらおかしかった。


「そうだと思うけど?」


そう言った電話の向こうの雪の顔が、ワタシにははっきりと想像できた。