2年おきの恋。-偶然と必然と運命と宿命-

 
**-- other side Thirteen --**



雪ちゃんとの関係も良好そのものだった。


3人で栞を守っている、3人で栞の病気と向き合っている、そう思っていた。


自分たちの個々の暮らしの中で栞にできることをそれぞれやっているんだと、そう思っていた。


ヒデも仕事が一段落すれば、4人で食事に行ったり遊びに行ったり、いろいろできると思っていた。


栞を思う気持ちは3人一緒なんだと信じていたんだ。


最近の栞は、薬が変わったこともあって辛そうだった。


それを心配すると、


「薬には副作用ってもんがあるんだから、心配したってキリがないんだよ」


と逆に怒られるんだ。


独学ではあるけど、本を買って勉強を始めていた俺は、その言葉で“あぁ!”と納得する。


相性とか慣れもあるんだろうし、栞が「大丈夫」と言っているんだから大丈夫だと思うようにしていた。


それに、俺が仕事があるときの週末は、雪ちゃんが代わりを努めてくれている。


こんなに頼もしいことはない。
 

 
**-- other side Thirteen --**



そうしてまた週末の仕事。
いつものようにトラックに乗って引っ越しの荷物を運んでいると、珍しく俺のケータイが鳴った。


ちょうど高速に乗っていたときだったから、すぐには確認できないけど、着メロからすると栞からのメールのようだ。


気を遣ってか俺が仕事中のときはメールもしない栞だったから、うれしくなって次のパーキングでメールを見てみることにした。


だいぶ先のパーキングでも、俺の気持ちはドキドキとワクワクでいっぱいになった。


パーキングに着くと、俺は期待に胸を膨らませてメールを開いた。


すると、人以外で一番最初に思いついたものをメールしてほしい、なんていうよく分からない内容。


最後まで読むと、雪ちゃんの会社で流行っている心理テストだということが分かった。


内容を理解したところで、さあこれから思い浮べるぞと思った矢先、会社から支給された仕事用のケータイがタイミング悪く鳴った。


嫌々電話に出ると、事務の吉田さんからだった。
 

 
**-- other side Thirteen --**



「桃原君が運んでいる荷物のお客様、予定の時間より早く向こうに着きそうだから、って連絡が入ったの。悪いけど、少し急いでね」

「はい、了解です」

「ところで桃原君、今高速じゃないの?」

「あ!ジュース買いたくてパーキングに入ったばかりなんすよ」

「そう。じゃあよろしくね。気をつけて」


『ツー、ツー、ツー……』


そんな数十秒の電話。


――パーキングにいる理由、吉田さんに嘘ついちゃった……。


それにしても、よくとっさにあんな嘘が思いついたもんだな。


大学まで行った俺の頭もだてにバカじゃないことが分かってホッとした。


そんなこんなで、急がなくちゃいけない理由もできたもんだから、俺は短くしかメールを返せなくなった。


ただ『プーさん』とだけ急いで打って送信。


栞には悪いけど、時間がなかったんだ。


パッと浮かんだものも、雪ちゃんからもらったプーさんしか思い浮かばなくて。


やっぱり俺はアホだった。
 

 
**-- Fourteen --**



それから数日後。
いよいよバレンタインデーが明日だという日。


体調は万全というわけにはいかなかったけど、仕事が終わってから雪と2人でチョコ作りをすることになった。


この前買った材料やラッピング用品を使ってけっこう本格的なものを作る計画で、下手をすれば夜中までかかりそうなほどだった。


ワタシにとっては、初めてあげるチョコ。


たぶんこれで最後になるであろうチョコ。


ワタシの気持ちを察したのか雪はすごい気合いの入れようで、ヒデの分を作るのもそっちのでワタシのチョコ作りを手伝ってくれた。


何度か入ったことのある雪の部屋で作ることになったんだけど、相変わらずというか乙女チックというか、ピンクで統一された部屋は圧巻だった。


ワタシの部屋には絶対にないもの――例えばフリフリのリボンがついたエプロンとかキラキラの小物入れとか、そういうものがいっぱいあった。


そんな乙女心を忘れない雪は、ある意味ワタシの憧れの存在。


ワタシにないものがあるから。
 

 
**-- Fourteen --**



ようやくラッピングまで終わったときには、終電ギリギリの時間。


急いで電車に飛び乗って、なんとか部屋まで帰ることができた。


チョコの効果なのか、この日は寝つきがよかった。


シャワーを浴びたあと、布団に入ってすぐに眠ることができた。


机にチョコと並べて置いてあるプーさんマスコットを見るたびに、直貴からのメールを思い出して笑ったりもした。


直貴には「早くテストの結果が知りたい」なんて言われていたけど、あの場での作り事。


結果なんてないものだから、答えようがなかった。


なんとかはぐらかして、バレンタイン当日までプーさんのことは悟られないようにしていた。


こんなことに楽しみを感じられるのもバレンタインにドキドキするのも、みんな初めてのこと。


ワタシの人生の選択は間違いじゃなかったって、そう思える瞬間だった。


明日を楽しみに生きられることなんて、直貴に出会わなかったら死ぬまでなかったかもしれない。


そう思うと、よく眠れた。
 

 
**-- Fourteen --**



そしていよいよ14日。
バレンタインデー当日になった。


直貴に仕事終わりに部屋に寄ってもらうように言って、ワタシは定時になるとすぐに部屋に帰って準備をしていた。


ここ最近、直貴とゆっくりすることもなかったから、夕飯くらい一緒に食べようと思って前もって連絡を入れていた。


『ピンポン、ピン〜ポン!』


8時少し前に玄関のチャイムが2回鳴って、それが直貴が来たことを知らせた。


ワタシたちの間でのお互いの確認作業みたいなもので、直貴が部屋に来るときはいつの間にか2回鳴らすのが決まり事になっていた。


急いで玄関を開けると、そこには愛しい人の顔。


いつもと変わらない笑顔でワタシを見下ろす直貴がいた。


「少し仕事が長引いちゃって」


申し訳なさそうなはにかみ笑顔で言う直貴。


「ううん。じゃあ、中入って」

「おっじゃましま〜す!」


ワタシがそう言うと、直貴はパッと表情が明るくなって慣れた様子で部屋に上がった。
 

 
**-- Fourteen --**



「お〜!今日は和風かぁ」

「そうなの!お袋の味の代表、肉じゃがにしてみました〜」


テーブルに出してある肉じゃがを見ると、直貴はうれしそうに言った。


ワタシも、直貴のいい反応を見てうれしくなってテンションが上がってしまった。


そして早速、2人でテーブルを囲んで食べることになった。


チョコとプーさんマスコットは食事のあと、直貴が帰る直前に渡すことに決めていた。


「いただきま〜す!」

「どうぞ」


直貴は真っ先に肉じゃがに箸を伸ばして、豪快に口いっぱいに入れた。


「どう?直貴のお母さんみたいな味になってる?」

「ふん!ふん!」


直貴はニコニコしながら首を縦に振って、満足した表情を見せてくれた。


「よかった」


ワタシはその顔に安心して、やっと1口、肉じゃがを口に入れた。


「前から思ってたんだけどさ、栞って料理上手いよな」


口にあるものを飲み込んでから、直貴は関心したように言った。
 

 
**-- Fourteen --**



「あ〜、高校卒業したらすぐに1人暮らし始めたから。自炊は得意なんだ」

「へ〜」

「うん」


――どうしよう、ワタシの家族のこと、聞かれるかもしれない。


いつか話さなくちゃとは思っているけど、こういう日には話したくない。


「余計なお世話かもしんないけどさ、栞の家族には……話してないの?」


直貴は箸を置いて、気遣わし気に聞いた。


――来た……。


「……」


ドキドキのピークが来た。
ワタシの心臓は、自分にも聞こえるくらいドクッドクッと早い鼓動を打つ。


「……ビールでも出すね」


ワタシはいたたまれなくなって、直貴の質問をはぐらかすように席を立とうとした。


「……大事なことだよ」


直貴はワタシの腕をつかみ、静かに言った。


「き、今日はいいじゃん、そんな話。あんまり時間も合わないんだしさ、会えるときくらい楽しくしようよ」


そう言って恐る恐る直貴を見下ろすと、真剣な目の中に切なさの欠片が見えた。
 

 
**-- Fourteen --**



「ごめん……、話したくないなら無理に言わなくてもいいから」


直貴はワタシから視線をそらし、少しうつむきながら手を離した。


「うん……」


それからの食事の時間はほとんど無言だった。


触れてはいけないところに触れてしまった……腫れ物をつついたような感覚。


それを2人とも処理できなくて、どうにもならないという空気が漂っていた。


9時を回ると、直貴は母さんが心配するからと言って腰を上げた。


「直貴……、ごめんね。ちゃんと話すから、もう少しだけ待って」


玄関先で靴を履く直貴の背中にワタシは言った。


「いいよ。俺が悪かったんだ、ごめん……」


直貴は振り返ると、バツが悪そうな、申し訳なさそうな顔をしてそう言った。


「あ、あの……、今日バレンタインだし、これ」


最後に直貴の笑顔が見たくて、渡せそうな雰囲気ではなかったけど、チョコとプーさんマスコットが入った袋を渡した。


直貴は少し目を見開いて、驚いた顔をした。