「……昔からだよ。私は暁のために我慢するべきって、お母さんはずっと言ってる。でも、今日は初めて自分の思い通りになった」
嬉しかった。自分の意思を尊重される喜びもあるけどそれだけじゃない。私の気持ちを理解してくれる人がいる、そのことにものすごく感動した。
「ありがとね。空が割って入ってくれたからお母さんとの間に変な空気残らずにすんだ」
いつぶりだろう。こんな穏やかな心持ちになったのは。そういえば昔、父がパチンコ屋の景品のお菓子をくれた。どこにでも売ってるチョコレート菓子だったけど、笑顔の父にそれを渡されるのがとても嬉しかった。
……そんなことすっかり忘れていた。父には嫌な記憶しかないと思っていたのに。いい思い出もちゃんとあったんだ……。
いつの間にか私は顔をほころばせていたらしい。それに気付いた空が珍しいものを見るような顔で見つめてきた。
「なっ、何!?」
「笑顔……。初めて見たなって」
言われた途端恥ずかしくなって、怒った顔を急いで作る。
「ああっ! もったいない! 今のいい顔だったのにっ」
「意味分からない!」
騒いでいると、暁がお風呂から出てきた。もうすでにだいぶ眠そうな顔をしている。「おやすみ」と言い暁は自分の部屋に入っていった。
私と違い、暁は一階の部屋を選んだ。私が選んだ二階を避けたのか、お母さん達の寝室がある一階にいたかったからなのか、理由は分からないけど。