お母さんに怒られながら口にするひつまぶしは全然おいしくなかったけど、不思議と今は頬が落ちそうなほどおいしく感じる。
朝から食欲がなかったのが信じられないくらい、あっという間に一人前のひつまぶしを完食した。可愛い模様の入った麩入りのお吸い物も一滴残らず飲み干した。
今日一日ほとんど何も食べていなかったせいかまだ食べられそうな気がする。
今までだったら学校帰りに買ったお菓子や惣菜パンを適当に食べていた。昼間お母さんと夏原さんが買い込んだ惣菜や食材が冷蔵庫にあることを思い出したけど、空のいる前でこれ以上何かを食べるのは恥ずかしいと思い我慢した。
ちょうど暁がお風呂に入ると言ったので、お風呂の使い方などを説明するため空が案内をした。すると楽しくなったのか暁は一人でお風呂に入れると言ったらしく、空はすぐダイニングに戻ってきた。
「暁君先に入らせたよ。ひつまぶしどうだった?」
「おいしかった!」
「よかった。新しい家族になった人達には絶対食べてほしいと思ってたんだ。あそこの鰻」
得意げに笑う空がさっきより近く感じた。空と夏原さんは前々から今日行った鰻屋の常連だったらしい。
「よかったの? 暁なんかに自分の分けてさ。ホントは嫌だったんじゃない?」
「全然。だってあのままじゃ涼も暁君もかわいそうだったから」
「私と暁が?」
「暁君も腹減らせてたし、涼が自分の分減らされるの嫌って思うのも当たり前だし」