「暁君、これ半分こしよ。まだ口つけてないから。取り皿持ってくるね」

 そうするのが当然と言わんばかりに、空は自分のひつまぶしを暁に分けようとした。

「いいの? ありがとう!」

 暁が素直に喜ぶと同時に、お母さんが空を止めようとした。

「いいのよ、そんなことしなくて。空君は育ち盛りなんだからたくさん食べないと。暁には涼のをあげればいいんだから」

「大丈夫ですよ。今日からは俺も暁君のお兄ちゃんですから」

「でも……」

「それに育ち盛りなのは涼も同じですよね。俺より年下だしたくさん食べさせないと」

 責める感じではなく穏やかな口調で空はお母さんにそう言い、暁にひつまぶしを分けた。仕草ひとつひとつが丁寧で優しかった。

「おおっ! 兄貴業やる気満々だな〜空! 父さん嬉しいぞっ。涙がちょちょぎれるっ」

 夏原さんが冗談めかしてそんなことを言った。私とお母さんが撒き散らしたピリピリした空気が瞬く間に消えていく。

 お母さんは何か言いたそうにしながらも諦めたみたいに微笑し、食事する子供三人を見ていた。もう怒ってはいないみたい。

 そんなお母さんをあたたかく見つめ、夏原さんはお母さんの肩を軽く叩いた。それに元気をもらったのか、お母さんは気を取り直したように空を見た。

「ありがとうね空君。私達これからまた飲み直しに行くの。留守番お願いね」

「分かりました。任せて下さい」

 空は気持ちよく返事した。