半ば資料に埋まった星羅をひとり地下室へ残し、和也とスミレは店へ出てきた。

「そう言えば、お店空けちゃってて大丈夫だったんですか?」

今更ながらの質問を、和也はスミレにぶつけた。

見渡す限り、今、店にお客は居ないようだ…

「あななたちが下へ降りてからは、閉店にしといたのよ。」

少し笑いながら答えるスミレを横目に、店の入り口へと目を向けると、店の外に掛けてあるプレートは、ガラスと薄いカーテン越しに「オープン」の文字が読み取れた。


『とりあえず座れば?』

スミレから目配せを受けた和也は、カウンターに座りながら、店内を見渡した。
既に、店内の全ての窓にカーテンがかけてある。

「何だか、スミレさんといい、教授といい、星羅といい、鋭いって言うか…何と言うか…感がいいと言うか…」

「常に一歩先を考えてる?」

「あっ!…そう…
 そんな感じです。」

完全では無いにしろ、思いをより的確に表現してくれたスミレに、和也は少し安堵した。


コースターの上にアイスコーヒーを置きながら、スミレは顔を上げないまましゃべり始めた。

「別にね、スゴイ事をしてるわけじゃないのよ…

 …僅かな“遅れ”が命取りになる…

 そういう世界に私たちは居るの。
 ちょっと和也くん自身が、組織を知らなすぎるのね。」

そう言ったスミレの顔は、真っ直ぐ和也を見ていた。

「私はあなたの事をよく知らない。
 少し、あなたの事を知りたいな…」

そう言って、スミレはカウンター越しに座った。

和也の向かいに…