結局は、最初のお見合いさえも、直行を組織に巻き込む為に、病院上層部が企てた茶番劇。

知らなかったのは、自分だけ…

さくら自身でさえ、計画されたものである事を知っていた上で、頻繁に研究室を訪れていたのだ。

『一体、さくらは今までどんな思いで…』

そこまでの話を聞いて、直行はふと、そう思った。

同時に、不甲斐なさと寂しさを強く感じた。

直行は確実に、さくらに惹かれていたから…


しばらくの沈黙の後、直行は穏やかなトーンで、さくらに1つの質問をした。


「あのさ、いつも持ってきてくれてたお弁当…その中に、さくらが作ったものは、1つも無かったの?」

少しの沈黙の後、さくらは小さく答えた。

「…玉子焼き…」


すると直行は、テーブルや床に散乱したお弁当の中から、すかさず玉子焼きを見つけ出し、指でつまんで、ホイッと口に放り入れた。

「な、何してんの!?
 汚いよ!!」

さくらにそう言われるのも構わず、しっかり味わってから、直行は答えた。

「うん、美味しい!!」


この時、2人は確かに感じた。

例え、出逢いも何もかもが仕組まれていた物であったとしても、今、お互いを『愛おしい』と思う気持ちに偽りは無いと…