さくらはまず、直行がこの病院に勤めるキッカケとなった「論文」についての説明をしてくれた。

直行が注目した「ある特定の遺伝子」について書いた論文だったのだが、その「特定の遺伝子」というのが、いわゆる超能力というものが使える「能力者」に、顕著に現れる遺伝子配列だったのだ。

そして直行の論文そのものが、検査データをごく身近な範囲から得ていたことを病院側は知っていた。
…つまり、この論文が目についた段階で、調査対象が誰なのかも、病院側は調べたのだ。

論文に必要なデータの調査対象者は、「直行」と「その家族」…。

実は、直行の一家も単に自覚していなかっただけで、僅かながら、能力が使える家系だったのである。

直行にとっては、標準よりも自分の家系が短命なのを不思議に思った事をキッカケに始めた研究をまとめた結果が、あの論文だったのだ。

現に、研究室内であれほどさくらが我が身を忘れて暴走したというのに、研究室の中は、さくらと直行が物理的に当たった物以外は散乱していなかった。


さくらは、組織内部でもかなり強力な能力者の1人だ。

彼女が精神的に我を忘れて暴走したら、本来、能力的にも暴走を起こし、部屋の内部はかなり酷い惨状になっているはずなのである。…いや、もしかしたら、被害は直行の研究室の内部だけでは済まなかったかもしれない。

そうならなかったのは、直行に何らかの能力があると推測するのが、何より自然だった。


病院側としては、そこまで見越した上で、直行とさくらを引き合わせる為にセッティングしたお見合いだったのだ。