「お母さん!!お母さん!!お兄ちゃん!!!」

救急車のサイレン、パトカーのサイレン、人だかり。

お母さんは血まみれで何度も呼んでも起きない。お兄ちゃんも揺さぶっているけど、起きる気配はない。

助けて

そんな言葉は、雑音、サイレンの音で掻き消され

俺達は担架で救急車に運ばれた。



お母さん?

お兄ちゃん?

どこにいるの?


真っ暗闇の中、俺は歩き続ける。
道もない。いっこうに出口には辿り着けない。

怖い。怖くて怖くて怯えていた。


それは、俺が見た悪夢。


悪夢から解き放たれ、俺は目を覚ました。電気の明かりが眩しい。

ピッピッピッ

と機材が音を刻む。

俺の目には、真っ先に天井が飛び込んできた。
体の感覚が全くない。麻酔のせいなのか。

それよりも、お母さんとお兄ちゃんが気になった。が、今の俺には何もできない事は知っている。

何もできない

何もすることができない

そんな無力の俺自身に、腹立った。






ーー数日後

俺は、前よりかは動けるようになった。リハビリもして、後数日で退院。

今日は晴れの日。暑い。


俺は息抜きに、中庭に行く。少しは涼しい。

心地好い風が、俺の髪をなびかせる。

「....気持ちの良い、風ですね....」

と、同年代くらいの女の子が声をかけてきた。綺麗な黒髪。透き通っている紫の瞳。

「....そうですね....暑かったので、ちょうどよかった」

俺は、短く話をする。これだけじゃ、つまらなかったなと後悔。

「ふふっ、そう堅くならずに。もっと気楽に話しましょうよ」

クスクス笑ってくれる。可愛い。

無邪気な笑顔、風でなびく黒髪。お姫様みたいだ。

「....っ、そうだね」

俺は優しく微笑む。すると、その女の子もフワッと笑った。

その時、俺の胸の中が、ザワザワっと疼いた。











しかし、その時の俺は、悲劇が近づいていることに、全く気づいていなかった。