そう話す千晴くんは、なんだか切なげに眉を寄せていて。

なんかもう、本心とはウラハラに彼を避けまくっていた今までの自分がほんと馬鹿みたいだ。

そこで私は初めて、控えめに千晴くんの背中へ手をまわす。



「千晴くん、すき……ずっと、すきでした」



声が震えた。なんて情けない。

だって、言っちゃいけないと思ってた。ずっと弟みたいに接してたこの男の子のこと、そんなふうに思っちゃいけないと思ってた。


胸の奥の奥の方。そこで埃をかぶるだけだった宝箱から拾い上げた陳腐な私の言葉に、それでも千晴くんはうれしそうに笑った。

笑顔のかわいさは変わらないのに、昔と違う私を抱きしめる腕や胸の広さにいちいちときめいてしまう。



「一花ちゃん」



さっきまでより低い声で名前を呼ばれた。

と思ったらあっという間に千晴くんの顔が近付いて来て、あっという間にくちびるを奪われた。

一瞬にしてかーっと頬を染める私を、千晴くんがとろけるような眼差しで見つめる。



「あー、やっぱ惜しかったかな。前に一花ちゃんからキスしてくれたとき、泣き顔ちゃんと見れなかったの」

「も、もう、それは……っ」

「でもさ、そっからのあまりの避けっぷりに、実は心折れそうになったこともあったんだよねー」



え、と、伏せていた顔を上げる。

千晴くんはそこでにやりと意地悪そうな表情をして、自分の左手にある腕時計を指してみせた。



「でも、大学の入学祝いに、一花ちゃんコレくれてさ。友達が言うには、女から男に腕時計をあげるのは『あなたの時間を束縛したい』って意味があるんだって。だから、まだ望みあるかなーって」

「なっ、」



彼のセリフに絶句して、また顔が熱くなる。

腕時計を贈る意味って! たしかにそんなのも、聞いたことあるような気はするけど……!