「ただいま……っ!?」

「どうした?和葉?」


お兄ちゃんと一緒に家へと帰って、玄関を開ければ目の前には眉を顰めたお父さんが立っていた。
あまりにも驚いたせいで私の後ろにいたお兄ちゃんに背中を預ける様な形になってしまう。
自分の力だけでは立っていられないんだ。


「……来なさい、和葉」


お父さんの目には私しか映っていなくて。
怒っている事は分かるけれど、どうして怒っているかは分からない。
大体、私はお父さんに怒られた記憶がないんだ。
いつもお兄ちゃんばかりを怒っていた。
そんなイメージしかなくて。
私は小さく頷く事だけで精一杯だった。

リビングへ入れば4人掛けのテーブルの定位置にお母さんは座っていた。
お父さんも自分の席に座り、私もお兄ちゃんもそれに倣って座る。


「和翔は部屋に戻ってなさい」

「いや、俺もココにいるよ」


お兄ちゃんは震えていた私の事を想ってか、頑なに席を立とうとはしなかった。
それだけが心の支えだった。
俯いて、テーブルの木目だけを見つめていた。


「……和葉……最近、学校をサボっているらしいな?
久しぶりに行ったと思えば、早退をしたらしいじゃないか。
遅刻もサボりも今じゃ目に余るくらいだと担任の先生がおっしゃっていた。
何でお前はそうやって問題ばかり起こすんだ。
少し成績が上がってきたからと言って油断をするんじゃない」


その言葉は確かに私に向けられているモノだった。
でも、それは他人事の様に聞こえる。
私はこんなお父さんは知らない。
饒舌で、マシンガンみたいに喋るお父さんは私の前では見せた事がない。
これは、いつもお兄ちゃんに見せていた顔だ。

そう理解した瞬間に頭の中に声が響き渡った。


「(やっと、まともな成績になってきたのに、素行が悪かったらイイ大学に入れないかもしれない。
……今のままじゃ推薦だって無理だろう……)」


お父さんの心の声。
初めて聞いた訳でもないのに胸が嫌に締め付けられた。