「もう……おかしくなっちまったんだよ俺は……」

「お兄ちゃ……!?」

「俺から離れないでくれ……俺を……俺を捨てないでっ……。
……ちゃんと俺を必要として……」


いきなり振り向いたお兄ちゃんは私の両肩を掴んだ。
必死なその顔は、今にも泣きそうで。
でも泣けなくて。
そんな苦しさが伝わってくるような顔だった。


「……お兄ちゃん」

「かずはっ……」


お兄ちゃんに名前を呼ばれてこんなに切なくなるの初めてだった。

細かい事はもうどうだって良かった。
お兄ちゃんが私を優越感に浸る為の道具として見ていようが。
どんな目で見ていようが。
私にとっては優しいお兄ちゃんだったから。


「私はココにいる!
お兄ちゃんから離れたりなんかしないよ!
私はお兄ちゃんが大好きだよ!いてくれなきゃ困るの!」


言ったと同時に私の体は抱きしめられる。
お兄ちゃんの温もりに涙が溢れ出てきた。


「……和葉……ごめんな、ごめん」


何度も繰り返される『ごめん』はお兄ちゃんの本物の言葉だった。

もう偽りなんかじゃない。
あなたの本音を聞く事が出来た。
それだけで十分だ。

抱きしめ合いながら私はお兄ちゃんを感じていた。

16年間ずっと傍にいてくれたお兄ちゃん。
でも、今初めて、心が通ったんだ。


「……よかった」

「あー……何か感動だな」

「ん」


遠くの方で正輝とお兄さんの優しい声が聞こえた。
そんな中で私たちはずっと抱きしめ合っていたんだ。