「ごめんね……お兄ちゃん……」


あなたの傍にいたのに。
何も出来なくてごめんね。

謝りながらお兄ちゃんの体に抱き着いた。

私よりずっと背の高いお兄ちゃん。
でも今は、少し頼りなげで、小さく見えたんだ。
今にも消えてしまいそうなあなたを力いっぱいに抱きしめる。


「和葉……何でお前が謝るんだ……傷ついたのはお前だろう?
悪かった……傷つけるつもりはなかったんだ……。
お前を傷付けたくなんか……なかったんだ……信じてくれ……」


途切れ途切れのその言葉。
哀しそうに震えるその声。

そんな風に言われたら信じない訳にはいかないじゃない。
答えの代わりにぎゅっとお兄ちゃんに抱き着いた。

言葉なんかいらない。
ただ今はお兄ちゃんとこうしているだけで幸せだったから。


「俺は……」


小さく呟くとお兄ちゃんは私の体を離した。
それが哀しくて俯けばお兄ちゃんの声が耳へと響いていく。


「あの家の長男に生まれて、沢山のプレッシャーを与えられたんだ」

「プレッシャー……」

「ああ、勉強もスポーツも。
何をするのにも常に1番を求められた」


その言葉に少し昔の事を思い出していた。
お兄ちゃんがまだ高校生の時、私は小学生だった。

お兄ちゃんはテストの日、高熱を出して。
それでも学校に行ってテストを受けたんだ。
でも熱のせいでいつもの調子が出なくて。
結果は3位だった。
十分に凄い結果なのに、お父さんもお母さんも信じられないくらいに怒鳴っていた。

私の頭に響くのは『(使えない)』、醜いそのひと言で。
お父さんもお母さんもお兄ちゃんを真っ直ぐに見てなんかいなかった。


「プレッシャーは沢山感じたけれど、親からの愛情なんて感じなかった。
誰も俺自身を見ていなくて、両親が欲しいのは“自慢出来る事”だったんだ」

「どういう事……?」


首を傾げればお兄ちゃんは寂しそうに口を開いた。