「目を合わせなくても聞こえる様になったの」


そう言って小さく笑って目を瞑った。
本当はこんな事はやりたくない。
だけど、お兄ちゃんと向き合うにはこうするしかないんだ。
そう思って頭に響き渡る声をそのまま口に出した。


「『和葉、どうしてお前は俺から離れていくんだ。
……俺だけを見ろ、俺だけを』」


苦しみが混じったその声は、お兄ちゃんの感情そのものだった。
でも私にはお兄ちゃんの心が分からない。
何を想っているのかが分からないの。
チラリと目を開ければ、口を開けながら小さく首を横に振るお兄ちゃんが目に映った。


「嘘だ……嘘だ……」

「嘘じゃないよ」

「やめろ!やめてくれっ……!」


大きな声。
でも、震えたその声は、私の胸へと突き刺さった。
お兄ちゃんが抱えているモノは何か分からない。
だけど。


「和葉……?」


私は正輝の手を離してお兄ちゃんへと近付いた。
キミは哀しそうに顔を歪めるけれど。
すぐに優しく頷いてくれる。
言葉はなかった。
でも、頑張れと言われている様だった。


「……私はずっと……お兄ちゃんを見ているつもりだった」

「和葉……?」

「お兄ちゃんはいつも私を支えてきてくれた。
ずっと傍にいてくれた、それがどんな理由であれ……。
私は凄く嬉しかったの。お兄ちゃんがいなかったら私はとっくに壊れてたよ」

「……」

「それなのに……。
私はお兄ちゃんの本当の気持ちに気が付く事が出来なかった。
お兄ちゃんの1番近くにいたのはずなのに!
お兄ちゃんの心に寄り添える事が出来なかったの」


私は沢山、支えてきて貰ったのに。
私は何も出来なかった。
お兄ちゃんを支える所か、ずっと苦しめていたんだ。