「俺たちの関係がくだらない……?
……何を言って……」


戸惑ったお兄ちゃんの顔を見ると胸が切なくなっていく。
掴まれている手が痛いくらいに握りしめられる。
それはお兄ちゃんの動揺を表しているんだ。
口を開こうとすれば、それを遮る様に反対の手をぎゅっと握られる。
正輝と繋がれた方の手に視線を向けて、そのまま上を向く。
そこには優しく笑うキミがいた。


「後は俺に任せて」


そう言ったキミはお兄ちゃんへと視線をずらした。
そして私を見つめていた目とは全く違う冷たい目をした。


「和葉はアンタの本当の心を知っているんだよ」

「な、何を言って……」


明らかに動揺をするお兄ちゃんに正輝はそのまま畳み掛ける様に話し続けた。


「1番近くにいて、1番信頼していたアンタの……。
アンタの本音を聞いた瞬間、この子がどんなに苦しんだのかっ……」


感情を押し殺すかのようなキミの声。
それは聞いた事も無いくらいに怒りが籠められていた。
さっきまで優しく繋がれていた手。
でも今は、正輝の爪が手の甲へと食い込んでいく。
彼の怒りを表すかの様に。


「アンタはこの子を裏切った。
和葉はこの世を去ろうとしていたくらい……。
自分ではどうしようも出来なくなっていたんだ!
アンタが和葉を追い詰めたんだよ!」


キミが怒鳴った瞬間、波の音が一際大きく響いたんだ。

正輝はどんなに怒っていたって。
怒鳴る事はそんなになかった。

だけど今、キミは私の為にお兄ちゃんを怒鳴ってくれた。
それが嬉しくて。
涙が零れ落ちるんだ。


「自殺……?」


お兄さんは信じられないといった目で私を見ていた。
まあ、普通の反応だ。


「どう……して……。
あれほどお前と目を合わせない様にしてきたのに……。
何で……心の声が聞こえたんだ……?」


お兄ちゃんにはもう冷静さなんて欠片もなかった。