「あの時って?」

「え?あー……ナイショ」


ジトッとした目で正輝は見てきたけど。
すぐに『ふーん』と私から目を逸らした。
でも諦めた訳ではないみたいだ。


「あの時って?」


同じ台詞を今度はお兄さんに向けていた。


「……俺と和葉ちゃんの秘密……かな?」


ワザとらしく笑うお兄さんに正輝は不機嫌そうに鼻を鳴らしていた。
だけど、その雰囲気は優しくて。
心の底から喜んでいる事が分かる。
お兄さんと、本当の家族になれた事が嬉しくて堪らないんだ。

そんな2人を見ていれば。
さっきまで黙り込んでいたお兄ちゃんが小さく笑った。


「和葉、行こう」

「えっ……」

「くだらない茶番劇に付き合うほど暇じゃないだろう?」


お兄ちゃんはニッコリと笑うと、正輝と手を繋いでいない反対の方の手を掴んだ。


「(和葉に触るな……!)」


頭に中に響くその低い声に体が震えるけれど。
それでも向き合わないといけないから。

私も、正輝とお兄さんの様に。
お兄ちゃんと本当の家族になりたい。

ぎゅっと唇を噛みしめてお兄ちゃんを見つめた。


「くだらなくなんかないよ」

「和葉……?」

「正輝たちは、ちゃんと繋がり合った。どんなにすれ違ってても強く結ばれた。
それをくだらないと言うのなら……」


言葉が途切れた。
胸が熱くて。心臓が痛くて。喉がくっついて。
体が喋る事を拒否している様な感じだ。

それでも私はふっと頬を緩めてお兄ちゃんの顔を見つめた。


「私たちの関係の方がよっぽどくだらないよ」


切ない、儚い、哀しい。
その全てが詰まった私の声。
お兄ちゃんにはどう聞こえた?どう感じた?
やっぱり……同情しかないのだろうか。