「ただ……羨ましかった……お前が……。
親や周りに期待されているお前が、愛されているお前が……。
何でだろうな……最初は俺だって正輝の事大好きだったのにっ……」


力なく笑ったお兄さんに正輝は『んー』と唸ってすぐにニタリと笑顔を浮かべた。
その悪そうな顔のままキミは口を開いたんだ。


「俺に嫉妬してただけでしょ」

「し……嫉妬……」

「そう。
皆が俺を見てたのは次男だから。
誰だって新しい命には目が行きがちでしょ?
それに兄貴は嫉妬してただけ。
俺よりずっと年上なのに、今も大人になりきれてないだけだよ」


少し馬鹿にするような言葉。
でも、その中にはお兄さんに対する愛情が溢れ出ていた。
それを分かっているからこそ、お兄さんも笑っていたのだろう。


「そう……かもな」


ふっと頬を緩めて、お兄さんは正輝から視線をずらした。
その先には私がいる。
黙ったまま目を細めるとお兄さん。
でも、頭の中で声が響いたんだ。


「(君のお蔭で動いたよ。
8歳で止まっていた俺の時間が……)」


優しいその声にフッと口元を緩めて頷いた。

お兄さんと話した時に私が言った言葉。
それを今でも覚えていてくれたんだ。
きっと、その時から。
ううん、ずっと前からこの時を望んでいたのだろう。
そう思っていればお兄さんは口を開いた。


「それと、あの時は悪かった」


私をベンチに押し付けた事を言っているのだろう。
でも、そんな事はどうだっていい。


「いえ。向き合ってくれてありがとうございます」


そう言って笑えばお兄さんは呆れた様に笑い返してくれる。
その顔が正輝にそっくりで、嬉しくなるんだ。
2人の時間が今、動き出したのが感じられた気がしたから。