ここは、ホテル槐(エンジュ)。


世界に名立たるVIPや著名人が泊まる一流ホテルである。



3ヶ月前にコンシェルジュとなった新米の江亀捗拵(エガメ チョコ)は、案内に対応に右往左往していた。



「お忙しいところ恐れ入ります。私は蔵織庵(クラシキ イオリ)と申します。錺禰纏(カザリネ マトイ)の家の者ですが、お嬢様はどちらに?」



にこやかに微笑みを称えた青年……庵は、自分の主である纏の所在を尋ねる。


庵は纏の執事兼専属世話係。



そして纏は、広大なレアメタルを発掘し今の地位を一代で築き上げた人を父にもつお嬢様だ。



「あ、はい!錺禰様でしたら中庭にいらっしゃいます。ご案内致します。」



噴水のある静かな中庭で、今はベンチに腰掛ける纏しかいないようだ。



「錺禰様、蔵織様が…」



「庵…!何しに来たの?」


「お嬢様を連れ戻しに、です。シークレットサービスを横目に抜け出して、挙げ句にタクシーを使って尾行を巻かれてしまいましたから。」



捕まえたタクシーに数分間ハザードを付けさせ待たせるという、スパイさながらのかご抜けを百戦錬磨の警護人相手に纏はやってのけたのだ。