彼がここの駅の線路で死んでから、六年が経つ。


彼は死んだその日から、私が彼の元へ行くのを待っている。


彼がふらりと現れては、「いつくるの?」といつも私に聞く。
「まだ、だいぶ先だよ」といつも私は答える。


そしていつの間にか、私の目の前から消えているのだ。



その日も雨だった。
というより、豪雨に近かった。

彼は、線路の上にいたケガをした子猫を助けて死んだという。


電車の運転手は、雨で視界が悪く、彼にも気付かなかったと言っていた。


私はその日ほど、雨を憎んだ日はなかった。


けれど彼は私の前に現れた。


制服を着て、丸い目を細めて少し困った表情をしながら、「ごめんね、七瀬」と言った。



六年経った今も、彼は変わらない。
この世にとどまっている限り、永遠に変わらないのだ。