「…ねえ」


今度は私が声をかけると、彼はちらりとこちらを見た。


「いつまで、そんな風でいるの?」


「…」


彼は答えなかった。
でも、答えてほしい。

私はもう二度と、彼と会えないかもしれないからだ。


「七瀬」


「なに?」


「七瀬はいつ、こちら側にくるの?」


小さく、少し掠れる声で彼は言った。
私を見ている彼の黒い瞳は揺れていた。


「まだ、だいぶ先かな」


私の声も掠れた気がする。


すると彼は、「そうだね」と小さな声で言った。


相変わらず、雨はしとしとと降っている。