駅に着くと、私は傘を閉じた。
そして、キャリーバッグについた水滴をハンカチでふき取る。


彼は濡れていない。


彼は先にホームの方まで行ってしまうので、私は慌てて追いかける。


「七瀬、早く」


彼にそう急かされて、私は無人の改札口を通った。
ホームを見渡せば、彼が近くのベンチに座っているのを見つけた。


「七瀬」


彼は微笑みながら私を呼んだ。


低すぎず、高すぎない彼の声。

彼の声はとても落ち着く。


私は彼の元へ行き、隣に座った。


「ねえ」


隣から声がした。
私は吸い寄せられるように彼の方を向くと、彼は少し悲しげな表情をしていた。


「どうしたの?」


堪らず私が聞いた。


「僕たちが高校生だったのって、何年前だっけ?」


高校の制服を身にまとった彼がそういう風に聞くのはなんだか可笑しい気がしたが、あえて言わない。言えない。


「六年前だよ」


「ああ…そっか…」


彼は少し下を向いた。