「…七瀬?」


彼の黒い瞳が揺れる。
その瞳に何度、吸い込まれそうだ、と思ったことか。


「私たちは、お別れをするんじゃない」


私の視界も歪む。


「私たちはまたいつか、生きていた時のように、一緒に過ごすために、前に進むだけよ」


目からこぼれ落ちたものが、ぱたりと地面を濡らした。彼は私を見つめたまま。感情は読み取れない。


「ずっと、一緒にいたかった…」


私の胸に秘めていた本音が、口からこぼれ出た。視界はさらに歪む。彼の顔は見られない。


もうすぐ電車が来てしまう。


私と彼は、こうして会うことは二度とない。


彼とまた一緒に過ごせる日は、いつになるのだろうか。

これでは、彼より私の方が未練たらたらとしている。彼を困らせただけだ。


「…ごめんね」


私はそう言ってポケットから取り出したハンカチで顔を拭いた。


もうすぐ電車が来てしまう。


このままだと、私は前へ進めない気がする。いつまでも彼に縋ってばかりな気がする。