分かっている。
私は彼の心残りを分かっている。

でも、私が答えたのでは、私にとっても彼にとっても意味がない。


彼の口から、彼の声で、言葉で聞きたいのだ。これは私のエゴだ。



「ねえ、教えてよ、心残り」


そう言うと、私は彼の手に自分の手を重ねた。


人間の質感も、体温もない。
触れられない彼の手に。


「七瀬が困る」


「困らない」


「やっぱり分かっているだろ」


彼がまた小さく微笑んで、



「僕は、七瀬が好きだ」



と、優しく告げた。