季節は冬。
学校への登校途中に意味もなく息を吐くと目の前が白く濁るような寒さ。乾燥していて肌がこわばってしまう。
通学路にある橋を渡っている途中で一瞬だけ強烈な風が僕の体を横殴りした。
その風はどこから拾ってきたのかわからないビニール袋を携えて飛んでいく。
それの行方を目で追う僕は歩みを止めて、今の風は[君]が眠気を覚ましに来た仕業なんだろうか、と思う。
目で追っていたビニール袋は、ついに風に捨てられて川へと落ちてゆく。その後は川の流れに乗って橋の下をくぐっていく。川はしばらく雨が降っていないため綺麗に澄んでいた。そこまで深さのある川でないため、下にある大きめの石や流木が見える。
まだ眠気が完全に覚めていないせいか、ふと懐かしいものが見えた。
中学生時代の僕と[君]が、夏にこの川で水遊びをしていた光景が。僕も[君]もとても楽しそうで、僕はTシャツに膝まで捲り上げた学生服のズボンの格好、[君]は白のブレザー姿で紺のソックスを脱いで細い足が露出していた。お互いに水をかけあっては、川を一所懸命に泳ぐ魚を見つけて観察したり。
ただ、それが見えたのじゃなくて回想だと気が付いたのは、川を橋から眺め降ろす僕の後ろを自転車が通ったときだった。
僕は再び学校へと歩き始めるが、少しの間とはいえ動きが止まっていたために体が冷えていた。学生服の下にカーディガンも重ね着しているのに、この時期の寒さはそれを容易く通り越して肌を冷えさせる。
でも、本当に冷え切っていたのは肌じゃなくて、もっと内側の僕の心だった。
僕は隣を見るが、[君]の姿はもう影も形もない。
約三年間、登校する度に一緒に歩いてきたからか、[君]が隣に居て一緒に歩く光景が見える。
『ねえ、本町通りにあるお店! みんな行って凄かったって言ってるから、今度行ってみようよ!』
そういえばこんな話をしたな、と僕は思って、僕の記憶の中の[君]と会話を続ける。
『わかった、あのデザートがめちゃくちゃデカいところだ。食べ切れるか分かんないよ』
『大丈夫よ、二人で行けば食べ切れるよ』
[君]は楽しそうに話す。
だけれど、[君]の姿は段々と、すぐ下に流れる川のように澄んでいく。
消えないでくれと思ってもその姿はロウソクの灯火のようにフッと消えてしまった。
気が付けば、橋を渡り切っていた。
気が付けば、僕の頬は一筋の涙がいくつも繋がって濡れていた。
[君]が居なくなってから、僕はすっかり泣き虫になってしまった。
歩く先の信号が赤で足が止まった時だった。
僕の行く先に、横断歩道の先に見知らぬ、僕と同い年くらいの女子が立っていたのが目に入った。
恰好から僕と同じ高校の生徒だと分かったが、顔は見たことがないから下の学年の生徒だろう。晴れていればもっとはっきりとブラウンと分かるショートヘアー、凛々しい目に筋の通った綺麗な形の鼻、触れることすら躊躇わされるほど白い肌。
その凛々しい目は真っ直ぐ僕を見ていた。
信号が青に変わり車も自転車も人も一斉に動き出した中、それでもなおその女子は動かず立っていた。相変わらず僕を穴が開くほど見ている。
だが、逆に僕はその女子に吸い込まれるような不思議な感覚に襲われ、その女子のもとへと真っ直ぐ歩いていく。
横断歩道を渡り、僕とその女子の距離は手を伸ばせば触れられる距離までに近づいた。
本当に不思議な感覚で、その女子とは初めて会ったような気がしなかった。
次の瞬間、僕は驚いた。
その女子の凛々しい目から先ほどの僕以上の涙が溢れだしたから。
涙を気にすることなく、その女子は口を開いてこう言った。
「また、会えたね。ヒカリ」
これだけで僕は、この女子が誰なのか分かった。
僕をその名前で呼ぶのは、ただ一人だけ。
そして僕はまた涙を流した。
これが僕と[君]の、二度目の出会いだった。
学校への登校途中に意味もなく息を吐くと目の前が白く濁るような寒さ。乾燥していて肌がこわばってしまう。
通学路にある橋を渡っている途中で一瞬だけ強烈な風が僕の体を横殴りした。
その風はどこから拾ってきたのかわからないビニール袋を携えて飛んでいく。
それの行方を目で追う僕は歩みを止めて、今の風は[君]が眠気を覚ましに来た仕業なんだろうか、と思う。
目で追っていたビニール袋は、ついに風に捨てられて川へと落ちてゆく。その後は川の流れに乗って橋の下をくぐっていく。川はしばらく雨が降っていないため綺麗に澄んでいた。そこまで深さのある川でないため、下にある大きめの石や流木が見える。
まだ眠気が完全に覚めていないせいか、ふと懐かしいものが見えた。
中学生時代の僕と[君]が、夏にこの川で水遊びをしていた光景が。僕も[君]もとても楽しそうで、僕はTシャツに膝まで捲り上げた学生服のズボンの格好、[君]は白のブレザー姿で紺のソックスを脱いで細い足が露出していた。お互いに水をかけあっては、川を一所懸命に泳ぐ魚を見つけて観察したり。
ただ、それが見えたのじゃなくて回想だと気が付いたのは、川を橋から眺め降ろす僕の後ろを自転車が通ったときだった。
僕は再び学校へと歩き始めるが、少しの間とはいえ動きが止まっていたために体が冷えていた。学生服の下にカーディガンも重ね着しているのに、この時期の寒さはそれを容易く通り越して肌を冷えさせる。
でも、本当に冷え切っていたのは肌じゃなくて、もっと内側の僕の心だった。
僕は隣を見るが、[君]の姿はもう影も形もない。
約三年間、登校する度に一緒に歩いてきたからか、[君]が隣に居て一緒に歩く光景が見える。
『ねえ、本町通りにあるお店! みんな行って凄かったって言ってるから、今度行ってみようよ!』
そういえばこんな話をしたな、と僕は思って、僕の記憶の中の[君]と会話を続ける。
『わかった、あのデザートがめちゃくちゃデカいところだ。食べ切れるか分かんないよ』
『大丈夫よ、二人で行けば食べ切れるよ』
[君]は楽しそうに話す。
だけれど、[君]の姿は段々と、すぐ下に流れる川のように澄んでいく。
消えないでくれと思ってもその姿はロウソクの灯火のようにフッと消えてしまった。
気が付けば、橋を渡り切っていた。
気が付けば、僕の頬は一筋の涙がいくつも繋がって濡れていた。
[君]が居なくなってから、僕はすっかり泣き虫になってしまった。
歩く先の信号が赤で足が止まった時だった。
僕の行く先に、横断歩道の先に見知らぬ、僕と同い年くらいの女子が立っていたのが目に入った。
恰好から僕と同じ高校の生徒だと分かったが、顔は見たことがないから下の学年の生徒だろう。晴れていればもっとはっきりとブラウンと分かるショートヘアー、凛々しい目に筋の通った綺麗な形の鼻、触れることすら躊躇わされるほど白い肌。
その凛々しい目は真っ直ぐ僕を見ていた。
信号が青に変わり車も自転車も人も一斉に動き出した中、それでもなおその女子は動かず立っていた。相変わらず僕を穴が開くほど見ている。
だが、逆に僕はその女子に吸い込まれるような不思議な感覚に襲われ、その女子のもとへと真っ直ぐ歩いていく。
横断歩道を渡り、僕とその女子の距離は手を伸ばせば触れられる距離までに近づいた。
本当に不思議な感覚で、その女子とは初めて会ったような気がしなかった。
次の瞬間、僕は驚いた。
その女子の凛々しい目から先ほどの僕以上の涙が溢れだしたから。
涙を気にすることなく、その女子は口を開いてこう言った。
「また、会えたね。ヒカリ」
これだけで僕は、この女子が誰なのか分かった。
僕をその名前で呼ぶのは、ただ一人だけ。
そして僕はまた涙を流した。
これが僕と[君]の、二度目の出会いだった。