階段の下から伸ばされた手の平を見つめた。

その指先に乗せるよう手を差し出すと、向こうからきゅっと握ってきた。


トクン…と胸が踊る。
たった二度しか会ってない男なのに、ナゼ気持ちまでが掴まれたような気がするんだろう。



「気をつけろよ」


そんな言葉も言えるんだ。ヤンキーだからって見損なっちゃいけなかったか。


「あんたドジそうだから」


前言撤回!やっぱ失礼な男!


「だ、大丈夫!平気!」


そうは言っても手を離そうとしないのはどうしてだろう。

谷口の手は不思議と心地いい。

程よく肉厚でふわっとしていてあったかい。



(今日だけお姫様気分でいるか)


龍宮にいる乙姫もウラシマに手を引いてもらっただろうか。
この場合の私は、姫なんだろうか。


(仮装してるんだから乙姫と言うよりはシンデレラに近いか。家に帰ってしまえば、魔法が解けて現実を思い知るんだし)


虚しくなって笑えた。
声には出さず、唇だけをフッと持ち上げた。



駐車場に戻ると、谷口が自分の知り合いがやってるレストランへ行こうと言いだした。
もしかして、私が払うのかと身構えたらーーー


「心配するな。カードで払う」


「えっ…」


ちょっと、ちょっと!
カード持ってるなら早く言ってよ!



(呆れた人…)


現金持ってないってそういう意味だったのか。
もしかして普段から持ち歩く習慣がないとかいうの?