一通り仕事内容の説明を受けて、実際に仕事が始まった。


ずっとタオルを畳んでいたけど、作業が一段落したところで、今日の仕事の終わりを告げられた。

……何しよう?

水分補給もして、少し手持ち無沙汰だった。

何となくプールサイドに行くと、他のマネージャーと監督が、忙しく動き回っていた。


これは…タイム計測?


「近藤!キック!!」


自分の苗字が呼ばれてドキリとしたけど、よく見たら日向が泳いでいた。

確かに、あれだと……ほら―――


一着は、日向ではなく、後から追い上げてきたタカだった。


「近藤、追い込みが足りない」

「っはい!」

「保坂、その調子だ。でももうちょっと前半のペースを上げろ最後ギリギリだったぞ」

「はいっ」


監督は次々に、他の選手にも話しかけていたけど、この2人がやはり群を抜いていた。

ストロークの長さも、足の動きも、掻きのダイナミクスも、高校生として見ると凄まじいポテンシャルの高さだった。

日向の成長と、タカのエースとしての能力を考えたら、どっちが上かな……

と、考えていたら。


「あ、日和ちゃーん!!」


タカに目ざとく発見された。

めちゃくちゃ元気に手を振っている。

あのスピードで泳いだ後に、なんでそんなに元気なの。。。

呆れた顔を隠さずに近づくと、先に日向に話しかけられた。


「マネの仕事は?」

「今さっき終わったとこ」

「あぁ、おつかれ、あんま無理すんなよ?」

「はいはい」


日向って過保護だよね~、かなり。


「日和ちゃん、日向がブラコン過ぎてウザくない~?」

「ぶっ殺すぞタカ」

「大丈夫、タカよりはウザくないよ」


アホっぽいことを言うタカに、双子でニコニコしたら、みるみる青ざめて逃げるようにプールを出た。

そして少し遠い所に立って、


「全っ然、怖くないんだからな!!」

「「めっちゃ遠いじゃん」」

「そ、んなことねーし!つーかハモるなよ!!」


そして、私はあることに気がついた。

恐らく日向もそれが分かったのか、双子は息ぴったりに固まった。

え、ちょ、、こわ……


「た、タカ、後ろ……」

「は??いや、なんでここでそのノリなんだよ?肝試しじゃないんだけど!?」


いや、めっちゃ声裏返ってるけど。

違う、そうじゃなくて……


「た、タカ、悪いことは言わないから…」

「マジでやめて!?俺、そういうの割とガチで無理なんだけ、ど……ぎゃぁぁあああ!!!!!」


タカは、言葉の途中で肩を掴まれて、ゆっくり振り返ると、絶叫した。

振り返る時の首の動きが、壊れたオモチャのようで少し面白かったと言ったら怒られるだろうか。


タカの後ろには、幽霊でも何でもなく、

――冷たい冷たい表情の岩島先輩がいた。

顔の整った人は、怒ると怖いってよく聞くけどこれは……想像以上では…?

夏本番が近づくこの季節、蒸し暑いくらいなはずなのに、背筋が凍ってしまう。


さながら極寒だった。


「保坂?」

「はひっ!」


同じく、声も氷点下。


「無駄口叩いてる暇あったら退け、次は3年が計測だ。邪魔になるな」

「す、すみませんでしたぁ!!!」


ものすごい勢いで頭を下げまくるタカを見て、憐れになってきてしまった。