「っ……!!!」


――――ガバッ



久々にあの時の夢を見た、水曜日の朝。

夏休みまで、あと3日。


毎年同じ日に見る夢。

私から全てを奪った、あの日々を。


涙と汗に濡れた顔に気がついて、ベッドを降りた。


遠くでセミの声がする。


洗面所で、ジャブジャブと顔を洗っていた。

ふと、鏡の中の自分と目が合った。


今日から花の17歳とは思えない、死んだ目をしている。



「おはよう」

「あ、おはよ」


自嘲の笑みを浮かべる前に、洗面所に入ってきた母は鏡越しに私を見つめて、朝の挨拶を交わした。

その顔には、気遣いの色が見えた。

まったく、もう止めてほしい。


「誕生日おめでとう」

「ん、ありがと」

「何か欲しいものはある?」

「……タイムマシーン?」


ちょっとした冗談で言ったはずなのに、固まってしまったお母さん。


ごめんて。


「…嘘、コスメか服か……あ、Douce Flora(ドゥース フローラ)のアイスケーキが食べたい」


Douce Floraは、私の好きなケーキ屋さん。

高1の春、私たちがこのマンションに引っ越してきてすぐに、歩いて10分ほどのところにオープンした。

花をモチーフにしたスイーツがたくさん並ぶ、女子に人気のお店。


「Douce Floraね、今日の仕事の帰りに買ってくるわ。コスメとか服は……今週末かしら」

「やった」


ふふっと、振り返って、母とよく似た形のいい口を横に引き伸ばして、嬉しそうに笑ってみせた。



お母さんは、毎年この日に限ってめちゃくちゃ優しい。