「……あのっ、本当にすぐに終わるので!」
思ったより大きな声が出て、自分でも驚いた。
先輩は、私の声に、足を止める。
――どうしてこんなに、必死に?
「そうか…?
わかった、ここで待ってるから。
……そんな顔するな」
ゆっくり振り返った先輩は、私の顔を見ると、少し困ったように薄く笑った。
そんな、顔。
私は、一体何がしたいのか…?
でも、引き止めた以上、あまり待たせるわけにはいかない。
急いでタオルを広げて、シワを伸ばすと、竿に掛ける。
洗濯バサミで留めようとしたら、
「あっ、」
焦りで手元が狂ったのか、落としてしまった。
慌てて拾って、勢い良く立ち上がったその瞬間。
世界が、真っ白になった。
途端に重心がぐらぐらと頼りなく揺れて
―――…倒れる!
来るべき衝撃に覚悟した。
のに、それは、淡い熱に姿を変えた。
目を開けると、私は先輩の力強い腕に右から倒れこんでいた。
コンクリートに触れる間一髪のところを何とか受け止めてくれたらしい。
そっと顔を上げると、私の顔を覗き込む先輩と至近距離で目が合った。
思わず、綺麗な顔……と呆けてしまう。
でも、低い先輩の声に我に帰った。
「大丈夫か?」
「……あ、ごめんなさいっ」
本当に私、何やってるの!?
先輩を困らせて、その上目の前で倒れかかるとか……
恥ずかしさやら後悔やら何やらで、また勢い良く起き上がろうとすると、
「待て」
「……っ」
強く抱きしめられた。
「また立ちくらみになる。もう少しこのままでいた方がいい」
「は、い…」
声が揺れて不格好な返事になってしまった。
わかってる、別に抱きしめられてるわけじゃないって。
それでもやっぱりこのシチュエーションは……
先輩の体温と、微かに香る柔軟剤の香りに、立ちくらみの時なんかよりクラクラしてしまう。
少しだけ目線を上げたら、男らしい喉仏が見えて、顔に熱が集まるのを感じた。
「…ん?近藤」
「っは、はいっ」
「なんかお前…熱くないか?」
「へっ…??」
「もしかして風邪か?さっきの立ちくらみは熱のせいか?」
そう言うと先輩は、心配そうに少しだけ眉を下げて私のおでこに手を当てた。
もう心臓はバックバクだし、血流がよくなり過ぎて更に体温が上がっている気がする…!!
ごめんなさいもう無理です先輩……!!
バッと立ち上がると、少し先輩と距離をとった。
「だっ、大丈夫です!!熱もありません!!」
「そうか?」
「はいっ!あっ、タオル!タオル干さなきゃ!!」