「行くよ、藤さん」
「うん」
「母さん、行って来る」
「行ってらっしゃい。楽しんでおいで」
ニコニコしながら手を振ってくれる怜子さんに、私はぺこりと一度頭を下げた。
「怜子さん、ありがとうございます」
「いいえ」
家を出てから、槙野くんは改めて私の方を向く。
どこか照れ臭そうに呟いた。
「……本当に藤さん可愛い。あんま見れないや」
「何それ、照れる」
頬を手で覆いながら答えると、槙野くんは視線を逸らしながら手を出した。
私はその手を凝視した。
「藤さんの手」
「え、あ、うん」
私はドキドキしながら、ゆっくりとその手に自分の手を重ねた。
思っている以上に骨ばっていて大きい槙野くんの手が、私の手を包み込む。
優しい体温に鼓動が早鐘の様に鳴っていた。