「……ありがと、もう平気」


そう言って、私から距離を取ると槙野くんは机の前に座った。
私も並んで座る。


真剣な表情で槙野くんは話し始めた。


「あのさ。力の事なんだけど。
僕も大嫌いな人にしたらいいんじゃないかって思ったんだ。考えたよ、もちろん。
嫌いな人ってのは湧いて出て来ると思うんだ。
一人じゃない。きっと、消したってまた出て来る。
いつまで経ったって終わらない。いたちごっこ。
本当にこないだ藤さんが言っていた事を僕も思っていたんだ」


私はうんうんと頷きながら、槙野くんの話を聞いた。


「それなら、僕は最愛の人から僕の存在を消すのが一番だって思ったんだ。
そうしたらやり直せる。藤さんの好きな男性になれるって思った。
でも、藤さんは違ってた。僕を知りたいって言ってくれて僕を好きになってくれた」

「……うん」

「だけどさ、こう思ったのは藤さんに好きな人がいなかったからだよね。
もしもさ、藤さんに好きな人がいて、ずっと片想いしてるとか知ったらさ。
僕は父さんと同じようにその人の記憶を消していたかもしれないんだ」