「そうしたら彼女は俺だけを愛してくれると思ったんだ。
怜子は俺を愛していると何度も言ってくれたし、確かに俺のモノになったんだ。
だけど、俺の記憶の中にいる怜子は一生彼を愛し続けている。
その怜子が俺を愛していると言っていないんだ。
そう感じてしまってからは、怜子を失う恐怖が消えなかった。
もしも、また彼に出会ってしまったなら怜子は彼を愛してしまうと思うから」
私も槙野くんも何も言えなかった。
テーブルの下で槙野くんがきゅっと私の手を繋いで来たぐらいで、何も言わなかった。
「だからな、理人には力の使い方を間違って欲しくなかったんだ。
俺は何度も何度も母親に説得されたのに、決行してしまったから。
でも、後悔はしていないよ。理人もいて、怜子もいて、俺は幸せなのだから」
「もしも、出会ってしまったら……どうするんですか?」
どうしても、これは聞きたかった。
槙野くんの私の手を握る手にぎゅっと力が入った。
「そうだな」
少し考え込んだ後、槙野くんのお父さんはカラっと笑った。
「俺の方がいいって伝え続けるしかないかな、きっと」
「そうですか」
「でも、もう会う事はないから。その人はこの世にはいないし」
「え」
「亡くなっているんだ。事故で。だからこそ、俺はたまに悩まされるんだ」
「…………」
言葉を詰まらせていると、ガチャっと玄関の開く音がした。
それから、槙野くんのお母さんの明るい声が響く。