「だけど、嫌いな人ってのはいなくならない。
例え、今その人を忘れてしまったとしても、また新しく嫌いな人が出て来る。
それならさ、……お父さんの中から私が消えた方がいいんじゃないかなって思ったんだ」

「え?……藤さん?」

「だって、そう思わない?私がいないとうちの家族は幸せなんだよ。
私がいるから今日だって紗奈さん、泣いていたんだ」

「違う。絶対にそんな事ないよ。藤さんのお父さんは君を邪魔だなんて思っていない。
そんな悲しい事を言わないでよ」

「うん、ごめん。本当は、本当はさ、お父さんに気付いて欲しいんだ。
私が何で苦しんでいるかって。でも、そうしたらお父さんと紗奈さんの関係は悪くなるでしょ?」


私がそう言うと、槙野くんは眉間に皺を寄せたままぐいっと私の手を引いた。
あっという間に私は槙野くんの体温に包まれていた。


ぎゅうっと痛いぐらい強く抱き締められて、私は心臓が口から飛び出すんじゃないかと思った。


「ま、まき、のくん?」

「藤さん、ね。僕、どうしようもなく藤さんが愛しいよ。
僕、藤さんを好きになってよかった。よかった」

「……っ」


私を抱き締める腕の強さは変わらないまま、槙野くんは続ける。