それでも目をそらさず、時貞さんと睨み合う私の前に。

「そこまでだ」

ジルコーが立ちはだかりました。

「よぉサムライ、このお嬢ちゃんは俺の獲物でな…生憎とおめぇに殺させる訳にはいかねぇんだ」

「…ならば」

時貞さんが攻城刀を大きく構えました。

「貴様から地獄に逝ってみるか、畜生」

「ほぅ…?」

ジルコーの背中から感じる気配が変わりました。

私と初めて遭遇した時の、あのピリピリするような気配。

密林で飢えた猛獣とバッタリ出くわしてしまった時のような、絶望的なまでの気配。

「畜生…そう言ったな、サムライ」

ジルコーは前傾姿勢で、身を低くして構えました。

「よし…地獄へはお前が逝け」

その身から、息も詰まるほどの殺気が立ち昇ります。

…彼の側で動けば死ぬ。

確実に殺される。

味方である私でさえ、そんな感情を抱かずにはいられないほどの殺気。

ジルコーは、怒っていました。

そもそも人狼とは誇り高い種族です。

自らの血統に誇りを持っています。

それを時貞さんは、『畜生』と愚弄しました。

ジルコーにしてみれば、殺すに十分な理由なのかもしれません。