坂井君は半開きになった口に手を当て、食い入るように保護メガネの奥のあたしの左目を見つめている。
疑念と不審に色濃く染まっていた目は、やがて強い混乱の色に染まり、彼はあたしの目から視線を逸らして素早くドアノブに手を伸ばし、扉を開けて飛び出していってしまった。
「坂井君!」
全力で走り去っていく坂井君の背中に向かって、あたしは彼の名を呼びながら扉の前で立ち尽くしていた。
朝練を終えた運動部員たちが、廊下を駆ける彼の背中を呆気にとられた表情で見送っている。
坂井君の姿が廊下の奥に消え去って、周囲の好奇の目があたしに突き刺さり、あたしは身の置き所がなくて逃げるように部室の中に入ってパタンと扉を閉めた。
薄暗くて埃っぽい、誰もいない狭い部屋の中で拳を握りしめながら強く両目を閉じる。
そうしてあたしは、まるで坂道を駆けあがっているような胸苦しさに耐えていた。
……受け入れてもらえなかった。やっぱり坂井君を傷つけた。こうなることが怖かったんだ。
心の奥の自分の声が聞こえてくる。
『ほら、やっぱりこうなった。だから言ったじゃないか』
坂を上ろうとすれば、苦しくて、息が切れて、つらい思いをするに決まっている。
それがわかりきっているのに坂を上ったのは、この左目が平らな場所に留まっていることを許してくれなかったから。
疑念と不審に色濃く染まっていた目は、やがて強い混乱の色に染まり、彼はあたしの目から視線を逸らして素早くドアノブに手を伸ばし、扉を開けて飛び出していってしまった。
「坂井君!」
全力で走り去っていく坂井君の背中に向かって、あたしは彼の名を呼びながら扉の前で立ち尽くしていた。
朝練を終えた運動部員たちが、廊下を駆ける彼の背中を呆気にとられた表情で見送っている。
坂井君の姿が廊下の奥に消え去って、周囲の好奇の目があたしに突き刺さり、あたしは身の置き所がなくて逃げるように部室の中に入ってパタンと扉を閉めた。
薄暗くて埃っぽい、誰もいない狭い部屋の中で拳を握りしめながら強く両目を閉じる。
そうしてあたしは、まるで坂道を駆けあがっているような胸苦しさに耐えていた。
……受け入れてもらえなかった。やっぱり坂井君を傷つけた。こうなることが怖かったんだ。
心の奥の自分の声が聞こえてくる。
『ほら、やっぱりこうなった。だから言ったじゃないか』
坂を上ろうとすれば、苦しくて、息が切れて、つらい思いをするに決まっている。
それがわかりきっているのに坂を上ったのは、この左目が平らな場所に留まっていることを許してくれなかったから。