これまでどんな侮蔑的なことを言われても、誹謗されても、あたしは聞き流してきた。

 世の中なんてそんなものだと学んだし、そうするのが一番だと思ってきたから。

 でも今回ばかりは聞き流せない。

 ドナーの弟である坂井君からの、その言葉だけは、絶対に聞き流すわけにはいかない!

「あたしは自己陶酔なんかしてないし、移植に携わった人を侮辱してないし、嘘なんか言ってない! あたしの左目には本当に坂井君のお兄さんの記憶と思いが宿ってるの!」

「まだ言うか!」

「言うよ! だって本当のことだもん!」

「そこどけ! これ以上ふざけた真似したら女でも許さねえ!」

「お風呂上がりの、ペットボトルのコーラ!」

「……!?」

 唐突に、この場にまったく関係のない言葉を聞かされた坂井君は虚を突かれて、怒鳴り声を引っ込めた。

「坂井君、お風呂上りにペットボトルのコーラを、息継ぎなしでラッパ飲みするのが儀式でしょ!? それも必ず300ミリリットルの微妙なサイズのやつ!」

「……」

「そのときテレビのお笑い番組見て、口の中のコーラ全部吹き出して、模様替えしたばかりの真っ白なカーペット汚して叱られたことあるでしょ!?」

 あたしを見下ろす坂手君の顔からは険しさが消え、素のままの表情でキョトンと両目を見開いている。

『なんでそんなこと、お前が知ってる?』

 彼の目が明らかにそう問いかけていた。

 あたしは彼が口を挟む隙を与えず、夢で得た知識を次から次へと矢継ぎ早にぶちまける。