「そんなこと言われた俺が、どんな気持ちになるのか考えてんのか!? お前やっぱり、女たちが噂してる通りのヤツだったんだな!」

 あたしは亀のように首を縮こませてビクビクと坂井君を見上げた。

 女子たちの噂? 坂井君、どんな噂を聞いたの?

 そんな疑問が顔に出ていたのか、坂井君はあたしを真っ直ぐ見下ろしながら険しい表情のまま叫ぶ。

「『小田川翠は悲劇のヒロインぶってる』って噂だよ! お前、自分の可哀そうな境遇に自己陶酔してんだろ!?」

「……!」

 巨大なハンマーで頭を殴りつけられたような衝撃に襲われた。

 ほんの一瞬で潮が引くようにザーッと体から血の気が引いて、手の平にドッと汗が滲み出る。

 全身が紙やすりで擦られてるみたいにジリジリ激しく痛んで、息がつまって苦しくなった。

「お前が自分に酔うのは勝手だけどな、ダシにされる方の身にもなれ!」

「……」

「移植に携わった人間の気持ちを侮辱するな! バカげた嘘ついてまで、お前は他人の注目浴びたいのかよ!?」

「……がう……」

「もう二度と俺に近づくな! そこどけ!」

「違う!」

 坂井君に肩を強く押されてよろけながら、あたしは声を振り絞って叫んだ。

 頭にのぼった血が、こめかみをドクドクと熱く脈打たせている。

 ドアノブに手をかけて扉を開けようとする彼の体を、両腕で力いっぱい突き飛ばしてもう一度叫んだ。

「嘘じゃない! あたしは本当のことを言ってる!」