坂井君の両目がビクリと反応した。

 明らかにうろたえた彼は唇をキュッと閉じて、穴が開くかと思うほどの強い視線であたしをじっと見つめている。

 でもその真剣な目はあたし自身じゃなくて、彼にとっての大切な何かを、あたしの奥から探し出そうとしているように思えた。

 あたしも両目を大きく開いて、なにも言わずにそんな彼の目を見つめ返し続ける。

 ふたりの間にまた沈黙がしばらく流れて、そして……。

「……なに、言ってんだよ、お前……」

 夢から醒めたように大きくふうっと息を吐き出し、坂井君は目を閉じて顎を上げた。

「悪ふざけはやめろよ。こんな冗談、楽しいか?」

「冗談なんかじゃない。信じられないのはわかるよ。あたしも最初はそうだったもん。でも……」

「いい加減にしろ!」

 いきなり怒鳴られて、あたしはビクッと震えた。

「家族亡くしたばかりの人間にこんなことして、なに考えてんだよ! ……お前の左目に俺の兄貴の記憶が宿ってる!? 心残りを果たしてほしい!?」

 眉尻を激しく吊り上げて、坂井君は大声で怒鳴っている。

 真っ赤に染まった顔でギョロリと目を剥いている形相が、彼の怒りの本気さを表していた。

 男の子からこんなすごい勢いで怒鳴られたことなんかなくて、あたしは息をのんで身を竦ませてしまう。