「わ!? なにすんだよ!?」

 坂井君は抗議の声をあげたけれど、構わずあたしは扉をバタンと閉めて、自分の背中でドアノブを隠してしまった。

 カーテンが閉じたままの部室は、扉を閉めてしまったせいで余計に薄暗い。

 両隣の部室も文化部のせいか、壁の向こうにも人の気配は感じられない。

 体育館の方から聞こえる掛け声や、ボールが床に弾む音が、ふたりきりの部屋の中に静かに響いた。

「……なんのつもりだよ」

 難しい顔をした坂井君に聞かれて、あたしはゴクッと唾を飲み込む。

 いざこの状況になると足元から震えが上がってきて、へたり込んでしまいそう。強烈な緊張のせいで体中の皮膚にゾクゾクと鳥肌が立っている。

 でもここまできたら後には引けない。言うべきことを言うしかない。

「あたしね、坂井君のお兄さんが提供してくれた角膜の、レシピエントなんだ」

 直球で、ど真ん中に切り込んだ。

 どう話を切り出そうか、うまい糸口を探して直前まで悩んでいたけれど、なんだかもうそんな余計な小細工は一切無意味な気がした。

 言いたいことを言い切ってしまって、言う前よりも動悸と緊張が高まる。

 坂井君からどんな答えが返ってくるのか、怖くて怖くてたまらなくて、彼の姿を直視できずに俯いた。