ありがとう千恵美ちゃん。本当のこと言えなくて、ごめんね。
千恵美ちゃんの姿が人混みに消えるのを見送って、再びロッカーの方へ視線を向けた瞬間、ドクンと心臓が高鳴る。
……坂井君だ。坂井君がロッカーで靴を履き替えている。
彼はあたしの視線に気づいた様子もなく、ロッカーの扉の裏についている小さな鏡を見ながら軽く手で髪を整えて、ガシャンと扉を閉めてこっちに向かって歩いてきた。
近づいてくる彼の姿を見つめるあたしの足は、棒のように動かない。
心臓は破裂しそうに苦しくて、全身がバクバク脈打っている。
できることならこのまま視線を逸らして、彼に気がつかなかった振りをして、コソコソ隠れてやり過ごしてしまいたい。
でも……。
あたしはグッと唇を噛みしめ、手の中の鍵を強く握りながら小走りで近寄って声をかけた。
「あの、坂井君」
何気なく振り返った坂井君の目が、ギクリと見開かれた。
明らかに彼の態度は及び腰になっている。やっぱりあたし、避けられてるんだ。逃げられる前に誘い出さなきゃ。
言うんだ。『時間あるなら、ちょっとだけ付き合ってください』って言うんだ。
勢いに乗っかって言うんだ! 言うんだ!
「あの、付き合ってください!」
「……」
ポカッと口を開けた坂井君の表情を見て、あたしは、自分のセリフの一番大事なポイントが省略されていたことに気がついて青ざめた。
千恵美ちゃんの姿が人混みに消えるのを見送って、再びロッカーの方へ視線を向けた瞬間、ドクンと心臓が高鳴る。
……坂井君だ。坂井君がロッカーで靴を履き替えている。
彼はあたしの視線に気づいた様子もなく、ロッカーの扉の裏についている小さな鏡を見ながら軽く手で髪を整えて、ガシャンと扉を閉めてこっちに向かって歩いてきた。
近づいてくる彼の姿を見つめるあたしの足は、棒のように動かない。
心臓は破裂しそうに苦しくて、全身がバクバク脈打っている。
できることならこのまま視線を逸らして、彼に気がつかなかった振りをして、コソコソ隠れてやり過ごしてしまいたい。
でも……。
あたしはグッと唇を噛みしめ、手の中の鍵を強く握りながら小走りで近寄って声をかけた。
「あの、坂井君」
何気なく振り返った坂井君の目が、ギクリと見開かれた。
明らかに彼の態度は及び腰になっている。やっぱりあたし、避けられてるんだ。逃げられる前に誘い出さなきゃ。
言うんだ。『時間あるなら、ちょっとだけ付き合ってください』って言うんだ。
勢いに乗っかって言うんだ! 言うんだ!
「あの、付き合ってください!」
「……」
ポカッと口を開けた坂井君の表情を見て、あたしは、自分のセリフの一番大事なポイントが省略されていたことに気がついて青ざめた。