「──良かったら、これ使って!」

頭の上にカバンを乗せ走っていき、葵本の前に傘を差し出した。


チラッと見た葵本の表情は、キョトンとして驚いている。


「──あ、えと、雨、止みそうにないし、使ってっ!」


傘を半ば強引に葵本に渡して、雨の中を走りながら帰ろうとしたときだった──。


「──野、野上くんっっ!」

後ろから、ビックリするほど大きな声で俺を呼び止めた。


「──え?」


「──か、傘っ!
野上くんが濡れちゃうよ」


──そう言って、一瞬目が合うと、少し戸惑いながら傘を返そうとする葵本。


初めて呼んでくれた名前──

振り向いても変わらずに名前を呼びながら、俺の目の前まで歩いてきてくれた葵本にドキドキが止まらなかった───。