──side壱──
まいったな──。
カバンの中を探したけど、折り畳み傘も入ってないし──。
このままだと帰れねぇよな。
──俺は濡れて帰っても全然いいけど、葵本には風邪引いてほしくないしな──。
そう思い、雨が降っている空を一瞬見上げて思い出した。
「──あっ!」
もしかしたら自転車に傘、差しっぱかも──
そう思うと同時に、カバンを傘代わりに頭に乗せて走った。
向かうのは、自転車置き場──。
自分の自転車を見つけ、傘フォルダに差さっている傘を取って急いで走って戻った。
──さっきの出入口へ。
曲がり角を曲がり、見えてきたのは、寒そうに手を擦り、空を見上げる葵本の姿──。