「消えそうな声で何度も呼ばれたからな、慌ててここへ来たんだ」


ちゃんと、葵の声は皐月に届いていたのだ。

微かで消えそうな声でも、皐月は心配して来てくれた。

その事実が、とても嬉しい。

葵は笑みを浮かべ、静かに目を閉じた。

布越しに感じる、皐月の体温。

それがたまらなく愛しい。

初めて感じる、ふわふわと浮くような想い。

もしかしてこれが、俗世に関わるものだろうか。

この心地よい想い。

どうして、それが禁忌なのだろう。

こんなにも温かく、優しいものなのに。


「葵、こちらを向け」


皐月の体がそっと離れていく。

それに寂しさを感じながら、葵は言われた通りに皐月に体の正面を向けた。

膝立ちしている皐月を見上げると、甘みを含む表情で葵を見つめている。

そして、ふいに皐月の体が葵の方へと寄せられた。

葵の顔の前に皐月の顔が迫り、思わず反射的に目を咄嗟に閉じた。

それとほぼ同時だったと思う。

温かく柔らかな何かが葵の唇に触れた。

葵は驚いて、慌てて目を開く。

そして、自分に触れていたものを知り、葵は思考が停止した。

葵の唇に触れていたのは、皐月の唇だったから。

何故、突然このようなことをするのだろう。

巫女には、禁じられた行為なのに……。


「駄目だな……。
抑えようと思っていたが……」


皐月が葵から離れながら、静かに呟いた。