「流石は、巫女だな」


感心するような、低い男の声。

それは、右隣から聞こえてくる。

葵は、ゆっくりとそちらへ振り向いた。

最初に目にしたのは、燃えるように鮮やかな赤い髪。

表情の変化に乏しい顔は葵に向いてはおらず、胡座の上に頬杖をついて座っている男の姿があった。

男から感じる霊力は、皐月とは比べものにならないほど強いようだ。

「神様とお見受けしますが……」


戸惑いながら男に聞くと、ようやく顔がこちらに向けられた。


「私は緋月。
皐月の知り合いだ」

「皐月様の……」


皐月の知り合いならば、大丈夫。

安心出来る方だ。

葵は強張らせていた体から、すっと力を抜いた。

「私は、お前に聞きたい事があって来た」

「聞きたい事、ですか……?」


突然告げられ、葵は首を傾げた。

たとえ皐月の知り合いだとしても、葵と緋月は初対面。

会うことはもちろん、話したこともない。

そんな神が、一体何を聞きたいというのだろう。

葵は首を傾げたままで、緋月の言葉を待つ。

すると、緋月はやがて、ゆっくりと口を開いた。


「どうして、巫女姫という役職をしている?」

「え……?」


まさかそれを聞かれるとは思っていなかった葵は、思わず聞き返す。

そんな葵に、緋月はゆっくりと顔を向けた。