「……好きに過ごせというのが一番困るわよ」


神社の境内から出られない葵には、外へ遊びにはいけない。

かといって、趣味があるわけでもない。

掃除や食事の支度、洗濯も全て老婆の役目。

今日の葵は、完全に手持ち無沙汰だ。

どうしようかと考えを巡らせる。

しかし、何も浮かばない。

暇を持て余こととなった葵は、深く息を吐いた。


「はぁ。……ん?」


そんな時、葵は静かに目を細める。

不意に背後から感じる気配。

それは、神経を研ぎ澄まさなければわからないほど微弱なもの。

人間は気配を消せる者は少ない。

それに、この田舎村の住人は皆が農民。

そんな事が出来る者はいない。

しかも、気配に微かに混じるものがある。


「霊力……?」


霊力もまた、村の住人には皆無に等しい。

ならば、考えられるのはたった一つ。

神。

その存在しかない。

しかし、気配や霊力は繧霞のものでも、皐月のものでもない。

葵は訝しい表情で部屋を見回す。

しかし、目では確かめられず、葵以外の姿は部屋にない。

しかし、確実に気配と霊力は感じる。


「……どなたか、いらっしゃいますか?」


葵は思いきって聞いて、しばらく返事を待ってみる。

しかし、返事はない。


「気のせい、かしら……」

葵はそう呟いて首を傾げた。

微弱だが、確実に感じるのだ。

気のせいではないと思うのに。

誰もいないのなら、気配や霊力を感じるはずはないのだから。


「あの……」


もう一度聞いてみる。

すると、気配と霊力が葵に近づいた。

やはり、この部屋にいる。