___君がいない世界はこれからの人生 寂しすぎる。

俺だって〇〇のためなら_



「大ちゃーん!ちょっと、スタジオ変更だって!ねーえ!」
伊野ちゃんの声で我に返る。
「あ、ごめ…」
「また、考えてたの、〇〇のこと」
「…どうしても信じられなくて」
俺の彼女はまだ22歳だった。
今なら23歳だけど。
彼女は……〇〇は、自殺したんだ。


去年の今頃、桜が散りかけていたその日。
〇〇は変わらない笑顔で、いや、今思えば少し泣きそうな笑顔で俺を見送ってくれた。
パタン、って扉が閉まってそこで〇〇の姿を見ることは無くなった。

その後8時くらいに家に帰ったら部屋が真っ暗でびっくりした。
電気をつけたらある紙が目に入った。
そこには
「ねえ大ちゃん。大ちゃんはなにも言ってくれてなかったけど雑誌とかで彼女がいるっていう噂が立ってるんだね。私はテレビも雑誌も見ないから知らないと思ってたんだろうけど、大ちゃんのことはこれでも把握してたつもり。
でも私がいるせいで仕事が次々に減ってるって書いてあって あぁ、やっぱり……って思った。私がいたから大ちゃんに迷惑がかかってるんだって。
時々 世間に私たちのことがバレたらどうしよう、って思ってた。
きっと離れなきゃいけなくなる。メンバーのみんなにも迷惑かけるし。
でも私にとって大ちゃんのそばを離れるのは死んでると同じことなの。
勝手でごめんなさい。
私はもう大ちゃんのそばにはいられません。最後まで呼び捨てで呼べなくてごめん。ずっとずっとこれまでもこれからも死んでも大好きです。」

『なに、これ……』
ガクッと力が抜けて座り込むとピッとテレビがついた。
〈続けてニュースをお伝えします。
先ほど〇〇駅で飛降り自殺が起きました。死亡したのは二十代前半の女性、大波〇〇さんと見られています。この事故により、電車は全線……〉
『……は?』
目と耳を疑ったよ。そんなはずはない、って。
でも結局それは悪い夢でもなんでもなくて現実だった。


一年経った今でも信じられない。
昨日のことのように感じられる。

彼女を自殺まで追い込んだ社会が、無力な自分が、許せない。
あれからしばらくして彼女説は消えたけど心に負った傷は前よりも深くなっていた。
どうして彼女が死ななければいけなかったのか?
どうしてアイドルというだけで普通の恋をすることができないのか?

「〇〇は大ちゃんのことを思って、その、選択肢を選んだんだろ?」
「でも!……でもそれなら俺だって〇〇みたいに……!」
「大ちゃんにはまだすることがあるだろ!?〇〇が自分の命を捨ててでも守ろうと、した、もの 大ちゃんにはっ、分かんねえのかよ!?」
伊野ちゃんは目に涙を溜めながら叫んだ。

でも俺は、俺も死にたくなるくらい〇〇のことが好きだったんだ……


家に帰るとふわっとかおる〇〇の匂い。
2人で暮らしてた頃がどうしても忘れられなくて変えられない柔軟剤の香り

「……〇〇、」
呼んでみても1人では広すぎるこの部屋に響くだけ。
ドサッと荷物を落としてベッドに沈む。
はぁ、と小さく漏らし目を閉じた。
思い出すのはやっぱり〇〇の顔だけで。
笑うと細くなる目も怒ってそっぽ向くとこも綺麗な涙も全部思い出す。

仕方なく起き上がりなんとなくソファにもたれ込む。
クシャっ
「……?」
なんか踏んだ
クッションの裏に隠れていたのは
〇〇の本当の気持ち。

ホントは離れたくないよ、死にたくない、
大ちゃんのそばにいたい。いつまでもいつまでもそばで、
いたかった。
でも大丈夫だね。
私はいなくなるけど大ちゃんには仲間がいる。
あんなにいい人たちは世界中探してもなかなかいないよ。

それから、もうひとつ。
大ちゃん。私のことは忘れて違う子と幸せになってね。
きっと大ちゃんは自分を責めるから、、
もっといい子がどこかにいるよ!頑張れ!
P.S. 愛してるよ、大貴


なんで、
「なんでいつもいつも俺のことばっかなんだよ……!!もういいよ、いいから……」
涙が溢れて止まらない。
視界がぐにゃぐにゃ歪むけど拭っても拭ってもきりがない。

「俺のほうが、愛してるよ……」

そうつぶやいた時
"私の方が愛してる、"
って聞こえた気がしたんだ。

ありがとう、ちょっとだけ、進めそうな気がするよ。