朝食後、いつものようにパーカーにデニムを着た私は、新太のバイクの後ろに乗せられ、連れられるがまま家を出た。
向かい風に耐えるように、バイクの後ろで新太にぎゅっと抱きつくと、あの家の洗剤の香りとかすかに新太の香りがする。
そんなささやかな香りひとつを感じられるほど、最初の時ほど恐怖感を感じなくなっている証なのだと思う。
……新太の、匂い。いい匂い。
安心感に甘えるように、抱きつく手に力を込めた。
そのうちにだんだんと辺りにはビルが増えて行き、景色は見慣れたものになっていく。
あれ、ここ……。
通り過ぎていく家やマンション、ビル、公園……それらから、ここが私の自宅からそう遠くない場所であることに気付いた。
けど、私の家の近所になんの用が……?
「はい、到着」
新太のその声を合図にするように停められたバイクから降りると、そこはこのあたりでは名の知れた大きな霊園前の駐車場だった。
「霊園……って、ことは」
「うん。お墓まいり」
そう言ってヘルメットを外すと、新太は霊園前の小さなお店で小さな花束をひとつ買い、それを私に持たせた。
そして自分は手桶と柄杓を持つと、沢山のお墓がならぶ敷地の中を慣れた様子で歩いて行く。
「……と、ここだ」
少し歩いてきた先で足を止める新太の前には、少し古いお墓がある。
墓石には『早坂家之墓』と書かれており、ここに新太のおじいちゃんが眠っているのだと気づいた。
もしかして、会わせたい人って……このこと?