一目だけでも、そう願った人は



本当に目の前にいるのに、



声をかけることも、歩み寄ることもできぬまま



奈央子が来るのを、ただ待つしかなく。



それどころか、目をそらしてしまう。



もう、気持ちなどない。



彼は私を愛してくれなどしない。



私の性格に愛想を尽かせて



別れを告げたのだから。



いつまでも見つめていてはいけない。



前を向いて新しい恋を探さなければ。



心の中で熱く燃え滾る気持ちに



知らぬふりをしながら、



自分にそう言い聞かせた。