「いえ、別に深い意味は。だってこの心理治療も母が勝手にそうさせているだけだし、俺は別に悪いところなんてない」

「そうかな。私の目には全然普通の高校生らしく見えないんだけど。常に何かを抱え込んで生きることを諦めているような感じがする」

「俺が、自殺をするとでも?」

「そうは思わないけど、心の奥にある深い闇を取り除いてあげたいだけよ」

「それは口実で、本当は先生はビジネスもあるから、なんとかお客を逃したくないだけでしょ。だからいつも引き止める」

「あら、そんな口叩くのね。まあそうね、ジョーイ程のハンサムな患者は手放したくないのは当たってるかも。なんてね。こう言えば満足かしら?」

「先生は本当に冗談が好きだ。それじゃ俺、これで帰ります。ありがとうございました」

 ベッドから起き上がり、服を整えてドアに向かった。

「待ってジョーイ、嘘でもいいからもう少し私に笑顔を見せてくれない?」

 ジョーイは振り返りもせず部屋を出て行くと、パタンと静かなドアの閉まる音が早川真須美を虚しくさせた。

 自然に湧き起こるため息を、ふーっと吐き出し、デスクの端に置いてあった電話の受話器を手に取りダイアルをプッシュした。

「今日も何も発展はなしか……」

 そして電話が通じると、いかにも気だるく誰かに桐生ジョーイのことを報告していた。