「俺はまだ7歳のときだった。いつも一緒に遊ぶ女の子がいた」

「その子は何歳くらいの女の子? もっと詳しく教えて頂戴」

「5歳くらい。時々家にも遊びに来ていた。毬のように元気に飛び跳ねて、いつも笑っていてとてもかわいい子だったように思う。でも顔の詳細まではもう覚えてない」

「その子の名前は?」

「アスカ」

「日本人?」

「分からない。でも俺と同じように血が交じり合ったような顔だったかもしれない」

「どうしてアスカちゃんが忘れられないの?」

「突然俺の目の前で消えたから」

「突然ってどんな風に?」

「家ごとアスカが爆破されて燃え尽くされるように消えてしまった」

「殺されたってこと?」

「わからない」

「どうして家が爆破されたの? それは事故? それとも誰かが爆弾を仕掛けたの?」

「わからない」

「それじゃ他にアスカちゃんを知ってる人は?」

「誰も居ない」

「家に来ていたのならお母さんは見たことなかったの?」

「多分見ていたはず、でも……」

「でも何?」

「アスカの存在を認めない。アスカは俺が作った架空の女の子だと思っている」

「それはどうして?」

「俺が人形を使ってごっこ遊びをするのが好きだったから、アスカも俺が作り出した幻影だと思っている」

「想像上のお友達ってこと?」

「でも違う。アスカは本当にいた。あの爆破が起こる前まで居間のソファで寝ていたんだ」

「その時あなたは何をしていたの?」

「受話器を手に持っていた」

「誰と話していたの?」

「誰かわからなかった」

「何を話したの?」

「母親が待ってるから外へ出ろって言われた」

「外に出たの?」

「とにかく確認するためにドアを開けた」

「その時見た光景を思い出せる?」

「森の中のような木に囲まれた家だったから、少し離れたところで車が一台止まっていたのが見えた。俺が外に出ると、車から母親が出てきて、もう一人知らない男の姿も見えた」

「それからどうしたの?」

「母親に手招きされて、俺は走り寄った。母親は俺を車に乗せようとしたので、アスカが家に居ると知らせた」

「アスカちゃんはどうなったの?」

「男が連れてくると言って家の中に入っていった」

「その人はアスカちゃんを見つけたの?」

「見つけた」

「それからどうしたの?」

「俺の前に差し出した」

「差し出した?」

「差し出したのはアスカが持っていた熊のぬいぐるみだった」

「それでアスカちゃんは?」

「どこにもいなかったって男が言った。そしたら熊のぬいぐるみがアスカだって、俺の母親が言いきった」

「熊のぬいぐるみが?」

「そう熊のぬいぐるみがアスカの正体」

「そしてその後どうしたの?」

「家が突然爆発した」

 この部分を語るのが辛いのか、ジョーイは顔を背けた。
 早川真須美は質問するのを止め、向きを変えてデスクに向かうと何かを書き込んでいた。

 暫し沈黙が空間を無に変える。